2018 年以降、百日咳は感染症法上の5類感染症なりました。患者報告数は2022年以降少しづつ増加傾向にありましたが、特に2024年以降の増加率が顕著になっています。
この感染増加を受けて2025年春、日本産科婦人科学会は「母子免疫(マターナル・イミュニゼーション)」に関する新たな方針を発表しました。
特に、乳児が重症化しやすい感染症である「百日咳」への対策として、妊婦へのワクチン接種が強く推奨されています。
今回は、この新方針のポイントと、現場で役立つ母子免疫の基礎知識をわかりやすく解説します。
なぜ、百日咳対策が必要なのか?
百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)によって引き起こされる、激しいけいれん性の咳発作を特徴とする呼吸器感染症です。特に生後3か月未満の赤ちゃんがかかると命に関わることもあります。
国内外の調査では、乳児への感染源の約半数が「母親」とされており、家庭内感染が多いことがわかっています。
妊娠中のワクチンで赤ちゃんを守る「母子免疫」
「母子免疫(マターナル・イミュニゼーション)」とは、妊婦がワクチンを接種することで、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体を届ける方法です。
母子間の免疫グロブリンの移行は、胎盤と母乳からがありますが、特に妊娠中の胎盤からの移行は、妊娠後期(特に27~36週)になると、母体の血液中の抗体(IgG抗体)が胎盤を通じて胎児に移行します。
これにより、生まれてくる赤ちゃんは、生後数か月間にわたり「母親由来の免疫」を持つことができます。
百日咳ワクチンを妊娠中に打つことで、お母さんの身体で作られた抗体により、生まれてすぐの赤ちゃんを守ることができるのです。
日本産科婦人科学会の新方針(2025年)
🔹 妊婦への推奨時期
妊娠に百日咳含有ワクチン(DTaPなど)を接種することが推奨されました。諸外国では妊婦(妊娠27週-36週)に対してTdap(成人用三種混合ワクチン)の接種を推奨しています。
🔹 医療従事者への推奨
妊婦・新生児と接する産科・小児科・訪問看護スタッフなども接種を推奨されています。感染拡大の防止と安全なケアの提供に繋がります。
ワクチンの効果と安全性
厚生労働省の研究班によれば、妊娠中の百日咳ワクチン接種(DTaP)は安全であり、胎児への抗体移行も確認されています。
海外ではすでに多くの国で導入され、乳児の百日咳による死亡が大幅に減少しています。(Tdap:百日咳含有ワクチン)
但し、日本で使用されているDTaP:百日咳含有ワクチン(3種混合)接種による乳幼児百日咳の重症化防止効果は証明されていないため、研究報告が待たれます。
参考
公益社団法人 日本産科婦人科学会 「乳児の百日咳予防を目的とした百日咳ワクチンの母子免疫と医療従事者への摂取について」2025年4月25日