今年は熊の出没が相次ぎ、今年の漢字に「熊」が選ばれるほど注目されました。ニュースでは、冬眠しないのか雪の中を歩く熊の映像が流れ、驚きました。そんな時にナショジオの11月号は、「人間と冬眠」という表題で、特集記事があり興味深い内容でしたので、ジャーナル紹介したいと思います。
冬眠って何?
冬眠とは、寒冷や餌不足の時期に動物が代謝活動を下げて、体温を低下させる生態をいい、動物の生存戦略の1つです。
狭義には哺乳類や鳥類などの恒温動物の一部が体温を低下させて餌の少ない冬を過ごす生態をいい、広義には魚類、両生類、爬虫類、昆虫などの変温動物が冬に不活発な状態で過ごす”冬越し”も含みます。
冬眠は、恒温動物でも動物種によって様々です。
例えば、ホッキョクジリスでは冬眠に入ると体温が約40℃も低下することがあり、心拍数を5回/分、呼吸数を1回/分にまで落として氷点下で約8カ月間を生き延びます。脳の活動はほとんど検知できなくなりますが、規則的に2~3週間おきに1~2日、体温が急上昇して覚醒します。この時、神経の接続は復活し、餌を食べ排泄します。
クマの冬眠は?
クマの場合は、体温は劇的に下がることはありませんが、心拍数は80~100回/分から約10回/分に低下します。通常なら血栓が生じ、心停止や脳卒中を引き起こしかねないですが、冬眠中は血小板を著しく低下させています。また、タンパク質の凝固を遅らせ、血栓の形成を妨げる遺伝子をもっており大丈夫なのです。
冬眠中は酸素の需要量を75%削減し、安全に呼吸数を減らすことができています。さらに、冬眠中のクマの肝臓と脂肪細胞はインスリン抵抗性を持ち、エネルギー源は糖ではなく秋に蓄えた脂肪を燃焼させています。
人の集中治療時は、1週間で筋肉量の10%以上を失うこともあると言われています。一方、冬眠中のクマはタンパク質とアミノ酸をリサイクルし、骨密度を維持したり新しい筋肉を作ったりして体を維持しています。これらの機能を解析し、人に応用できれば、多様な面でとても有用と考えられます。
また、クマの睡眠は浅く、緊急事態が起きた時にはすぐに目覚め、対応することができます。雌クマは、冬眠期間に出産し、子育てもしています。冬眠中の体温低下が、人が生存できる範囲内に収まっていることが、人の冬眠を研究する上でクマがモデルとされている理由です。
余談ですが、人を冬眠させる方法で冬眠しないクマを冬眠させることができれば、人もクマも安心して過ごせるかもしれないと思います。
なぜ今、冬眠研究が進んでいるのか?
近年、人を冬眠状態にしようとする研究がなされています。アメリカ航空宇宙局(NASA)では、火星への8~9カ月の旅の間、宇宙飛行士を冬眠状態にさせられないかという研究を委託しています。冬眠状態にすることで長期間の退屈な時間を苦痛なく過ごせ、乗組員同士の無用な衝突が避けられるだけでなく、食料や酸素の消費を減らすことで燃料を抑えられるからです。
実際、鎮静剤の「デクスメデトミジン」を慎重に投与することで、ボランティアを冬眠のような状態にすることに成功しています。
人を冬眠させるためには、クマが身につけてきた冬眠のための機能を研究することと言えそうです。
なぜ、医療が「冬眠」に注目するのか?
冬眠状態に近い治療は、すでに医療の一部として現場で使われています。心停止後などに行われる低体温療法は、体温と代謝を下げることで脳や臓器の損傷を抑える方法です。また重症患者では深い鎮静によって身体の負担を減らし、回復の時間を稼ぐ治療も行われています。さらに近年は、冬眠動物の仕組みを応用し、代謝そのものを抑えて重症外傷や感染症を乗り切る研究もあります。冬眠的医療は「早く治す」から「守りながら待つ」へ、医療の価値観を変えつつあります。
ここからは個人的な見解ですが、医療が「冬眠」に注目する最大の理由は、現代医療が技術は高度化した一方で、「助けはするが、回復させきれない」「延命はできるが、身体を守れない」という限界があるからではないかと感じます。
冬眠は、治すことでも、闘うことでもなく、代謝を下げ、炎症や損傷の連鎖を止め、「悪化しない状態を保つ」という発想です。これは、時間との戦いを前提にしてきた医療を、「時間を味方につける医療」へと転換させていると思います。
さらには、「がんばらせ続ける医療」から、回復のために立ち止まり、深く休む中で本来備わっているレジリエンスを引き出す医療の選択肢への広がりを見せており、患者の苦痛を軽減することにつながるのではないかと感じます。高齢化と慢性疾患の時代において、医療に選択肢が広がることは良いことだろうと感じます。
参考文献
ナショナルジオグラフィック日本版 2025年11月号 P.24~43
